ヘッジファンド運用担当者による仮想通貨市場分析

テクニカル分析編 Vol. 2
~BTCはアセットクラスとして認知されるか?~

株式会社クリプタクト 斎藤
2018年12月13日

前回のリポートでは、ボラティリティの動きに注目しBTC下落の底入れが近いことを指摘しました。今回は少し視点を変えて、BTCをひとつのアセットクラスとして俯瞰した場合、どのような特徴があるのか、またアセット間でどういった価格変動があるのか、といったことをテクニカル面に注目して分析してみました。

今回の結論

非常に低い金融資産との価格相関 ~リスク分散という視点での魅力~

図表1は、2017年1月から2018年12月までの日次BTC価格と各金融資産価格との30日相関をグラフ化したものです。縦軸は相関係数で、相関係数とは、詳細は省略しますが、-1から1の間に値をとるもので、1に近づくと正の相関、つまり動きが完全一致、逆に-1に近づくと負の相関、つまり動きが真逆となることを示しております。この値が0のときは全く相関が認められない状態で、一般的に-0.2から0.2の間にある場合はほとんど相関がないといって差し支えないかと思います。

図表1:各金融資産とBTC価格との相関(2017年1月から2018年12月) 当社調べ

図表1の通り、BTC価格との相関はおおよそ全ての期間で±0.2の範囲内であり、年単位での相関をみるとその値はを±0.1下回るものでした。時期によっては比較的相関のある(といっても意味のあるほどではないですが)資産は、興味深いことに金でした。

仮想通貨は伝統的な金融資産とは成り立ちや保有者及び投資家も別にしていることから、相関の低さは周知でもあり、この結果自体には驚くことはありません。ただし、2017年以降に市場が拡大していく中でも、引き続き広範囲のアセットクラスと比較してほとんど相関が認められないことは、そのこと自体大きな特徴の一つであり、また2017年12月にCMEにBTC先物が上場されて以降もこの特徴に有意な差がみられないことは考慮に入れていいかと思います。

さて、ここでBTCのファンダメンタルやその根源的価値の議論を横に置き、テクニカル面における取引の流動性やボラティリティに着目した場合、投資家が様々な資産をポートフォリオとして保有するにあたって、BTCのように他の資産との相関が非常に低いアセットはどのように捉えられるか考えたいと思います。

まず以下の2つのポートフォリオを考えてみました。

2014年から毎年期初にこのA及びBのポートフォリオを持っていた場合の、各年のリターン及びリスク量について調べたのが図表2となります。

図表2:各portfolioでの日次リターン及びリスク量比較 当社調べ

図表2の超過収益(a)は、平均日次リターンとリスクフリーレートの差、つまり無リスク資産での運用利回りをどれだけ日次で平均超過したか、を示しております。平均日次リターンとは、日次での各ポートフォリオの収益率の平均を表し、リスクフリーレートとは、無リスク資産の利回りを意味しており、今回は米国債の1年金利を採用しております。

(b)のポートフォリオリスクとは、各ポートフォリオの日次リターンの標準偏差を表しており、価格変動リスク(ボラティリティ)を表現しています。

この、平均超過リターン(a)を価格変動リスク(b)で割った値が(c)のシャープレシオと呼ばれるもので、単位リスク量あたりの実際の超過リターンを表現したものです。

このシャープレシオの値が大きいほうが、単位リスク量辺りのリターンが優れたポートフォリオ、つまりより効率的なポートフォリオということができます。図表2をご覧いただくと過去5年間のうち、シャープレシオが大きかったポートフォリオ(赤字ハイライト)として、BTCを組み入れていたポートフォリオBであった年が3回ありました。2018年については、A及びB共にリターンがマイナスであり、シャープレシオはリターンがマイナスの場合適切に比較できないという難点があるのですが、一方でBTC価格が最大80%近く下落した2018年においてもポートフォリオA及びBのリスク量に大きな差がないことは特筆すべき点かと思います。

これは言い換えると、ポートフォリオに5%ほどBTCを混ぜて保有しておくことは、全体のリスク量を大きく増やすことなく、より効率的なリターンを狙えるポートフォリオになる可能性が高いことを示唆しております。

このようにBTCが他の金融資産との相関が低いことで、ポートフォリオ組み入れという観点では有利に働くこともあるのです。

BTCが安全資産? ~絶対的安全と相対的安全~

ところで、現在のBTCを「安全資産」として捉える人はほとんどいないかと思います。これは、「何らかの与信リスクに紐づかない、分散型でトラストレスな決済が可能な通貨システム」が長期的に支持・拡大されるかどうかの議論ではなく、単純に現時点における資産としての価格変動リスクをとらえた場合に、BTCが安全であると考えるのは難しい、ということを意味しております。

一方で安全資産とは具体的にどういったものでしょうか。法定通貨や金を思い浮かべる方もいるかもしれません。「安全資産」という言葉の中には、無意識のうちに「絶対的に安全であるもの」という想像をしがちですが、実際には常に相対的に安全であるものに過ぎません。金はもちろんそうですが、例えば円であっても、過去6年間で日本円の米ドル建の価値は約30%下落しました。

こういった「安全資産」と呼ばれるものは、その時々の経済環境や市場環境によって刻々と変化していきます。10年前に安全資産と考えられていたものが今日でもそうである保証はありません。そういった中でも、法定通貨や金は過去大体において相対的に安全であるため、半ば絶対的安全資産として考えられるようになりました。

そこで、BTCが相対的に安全と言える時が来るのかどうか?またそういったことがあるとしてどういう市場環境においてそれが起き得るのか?ということを金と株式市場の関係をベースに考えてみました。

図表3は過去20年間のS&P500指数と金価格との相関をとったものを示しております。

図表3:S&P500指数と金価格との相関(2013年12月から2017年1月) 当社調べ

これらの金価格とS&P500の相関を見ると、長期間において相関係数はないしの範囲で収まっており、相関自体は弱いものとなっています。

一方で株式市場がクラッシュして低迷期に入ったときに、負の相関に向けて大きく動いており、これは株式市場が下落している中で、金価格は、負の相関が強まり、逆に上昇していることを意味しております(図表3の最初2つの赤い枠線の時期)。

図表4及び図表5は株式市場がクラッシュしていた期間のS&P500と金価格のチャートです。図表5はまさにリーマンショックの前後2年の時期であり、記憶に新しいかと思いますが、リーマンショックが起きた瞬間は流動性の枯渇から全資産の価格が一方向に下落をしました。しかしその後金は買われ始め、株式市場が底値から戻したとはいえ低迷していた時期においても、金価格は上昇を続けておりました。

株式市場が崩壊したときにまさに「相対的安全資産」として買われたことが如実に表れております。

図表4:S&P500指数と金価格(1999年12月から2003年12月) 当社調べ
図表5:S&P500指数と金価格(2006年1月から2010年12月) 当社調べ

もちろん、金そのものが歴史的にも「絶対的安全資産」としてのイメージを強く持たれていたことが大きな要因であることは間違いありません。しかし、ニワトリとたまごになりますが、他金融資産との相関そのものが低いことが、危機時における「安全資産」としての役割を果たす側面も大きく、BTCが「相対的安全資産」として評価される時代が来るとすると、それはまさに金融市場が崩壊した際にこの相関の低さに着目したトレードが起きることではないか、と考えております。

1点補足として、2010年代半ばにおける前例のない大規模な金融緩和の恩恵もあり、株式市場は非常に力強く推移しておりました。その期間において、金価格は市場崩壊時のような負の相関が大きくなりました(図表3の3つ目の赤枠)。要するに、株式市場は上昇を続ける中で金価格は下落をしていたことを意味しております。

様々な金融政策や金利環境など、その要因について説明することは可能ですが、市場環境が健全あるいは過熱している状況において、「安全資産」のパフォーマンスは一般的に芳しくありません。

冒頭申し上げた通り、BTCが現在「安全資産」として捉えられているわけではないので、現在の株式市場環境が直接BTC価格に影響を及ぼすとは考えにくいですが、株式市場の崩壊など特異な状況においてのBTC価格の動き次第では、今後このような金価格と似た動き(株式市場の危機時もしくは過熱時に負の相関が増す)可能性はあると思います。

CMEでのBTC先物上場以降に本格的な株式市場の崩壊はまだ訪れておりませんが、今後のアセットクラスとしてのBTCの捉えられ方を含めて、今後の株式市場の動向にも注目しておくのも非常に興味深いかと思います。

第2回のレポートは以上です。当社のサービスサイトで、これまでのレポートも配信しております。今後もレポートを定期的に配信予定ですので、ぜひ投資の参考としてご確認下さい。


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