【2021.11.09】東芝:コングロマリット・ディスカウントとは

【2021.11.09】東芝:コングロマリット・ディスカウントとは

icon2021年11月8日
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昨夜の米国株式市場はテスラ売却騒動を吸収し再び最高値を更新。今夜のPPIと明日のCPI発表を控え短期金利を中心に上昇しフラット化がさらに進んだ。

今日は東芝の分社化報道を受け、多くの日本企業で見られるコングロマリット・ディスカウントを少し深堀してみたいと思います。

報道によると東芝はインフラ(電力、交通、エレベーター等)、デバイス(リテール向け商品、ハードディスク等)、半導体メモリーの三つに分け、「コングロマリット・ディスカウントの解消」を目標とした再編を検討している模様。

このコングロマリット・ディスカウントとはどういうものか、投資家がどう捉えているのでしょうか。

東芝のセグメント業績を見て頂くと7つの異なる事業を手掛けていることがわかる。それぞれ2000億円~7000億円の売上規模と、0.5%の薄利から9%の高営業利益率の事業がある(ROS=return on sales、売上高対比収益=営業利益率)。
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投資家は東芝のような企業を評価する際はどういった指標を使うのでしょうか。表面的な収益だけを見て全社の株価収益倍率(PER)を使うケースがもちろん多いが、長期投資を見据えた大手機関投資家はSOTP(サム・オブ・ザ・パーツ)分析を用いるケースもある。

財閥系の歴史がある日本において、複数の異なる事業体で形成されている企業が多数存在する。

SOTPとは、それぞれの事業の理論的な価値を評価・集計し、全社価値を求めること。ただし、言うは易く行うは難し。SOTPの計算上、いくつかの課題がある:

  • 内部会計(Management accounting)と財務会計の違いによって外から「事業の境目」が判断しづらい側面が多数

  • 事業間の多くの取引がある場合(内部消去)、それぞれの事業の真の売上規模、収益性が把握しづらい

  • バランスシートの資本と借入がそれぞれの事業にどう紐づいているか、あるいはどう紐づくべきかも未知数

  • 複数の事業に分けたとしてそれぞれの事業の収益につくべき価値(バリュエーション=倍率)は市場環境によって大きく左右される

SOTPは会社の全株式を取得し、ばらして売却した場合が大前提であり、時価総額ではなく借金を考慮したEV(エンタープライズバリュー)を基準にした評価が基本。

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10人の投資家がSOTPを用いた評価をすると、上記の問題により主観がかなり入り、大体10人とも異なる結果にたどり着く。これがコングロマリット・ディスカウントの由来。

例えば、乾電池だけを製造・販売する会社の評価はわかりやすい。乾電池の価格は大体わかるし、販売数量が分かれば単価x数量で売上を予想できる。販売体制も、一般的なものであればコストを予測し、期待できる収益に対しても自信が持てるでしょう。投資においてこういった企業を 「ピュア・プレイ」(pure play) と呼ぶ。ピュア・プレイのわかりやすさから、投資家に好まれるケースが多い。すなわち、同社の事業が構造的に伸びていればプレミアムが付くケースも多い。

一方、コングロマリット・ディスカウントを受ける企業は、一つの事業の方向性を理解するだけで全社の行方が想定できず、同じ金額を投資したとすればピュア・プレイのほうが確実にリターンを予測できる。

東芝は現在、14倍のPERで評価されている。一つの比較に過ぎないが、半導体関連事業が中心のロームと東京エレクトロンはそれぞれ22倍と23倍で取引されている。

東芝の中の半導体事業を分社化・売却した場合のバリュエーションが他社並みの倍率となる前提をおけば、現在の株価が将来的な理論価値を求めたSOTPに近づく可能性。

ただしそういった再編はごく稀であり、ディスカウントが解消されることはそうそうない。

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日本の商社は正に、慢性的なコングロマリット・ディスカウントを受けてきた業種。各社とも百数十社の子会社を抱え、経営者たち自身でもパッと全社の構造が思い浮かばない。外部投資家はそういった企業を正確に評価できるわけがない、と思うのが普通だが昨年 「わからないものに手を出さない」バフェット氏が日本の大手商社にまとまった資金を投資 した。正直、個人的にニュースを見たときは驚いた。確かに商社の子会社の中にバフェット氏のエンパイヤとのシナジーがある事業体はあると思うが、全社の株式を保有することでそれが効率的に実現できるとは思えない。前向きな見方ではないが、ほかで魅力的な投資先が見つからない中、そこにたどり着いた、とも考えられる。

東芝はこれまで多くのガバナンス問題を起こし、コングロマリット・ディスカウントだけが同社の課題ではないのは言うまでもない。分社化と経営層の刷新で本来あるべき企業価値に近づけるなら確かに検討すべき選択肢の一つではある。

主要市場の動き

  • ダウ 36432.22 (+0.29%)

  • S&P 4701.70 (+0.09%)

  • NASDAQ 15982.36 (+0.07%)

  • FTSE 7300.40 (-0.05%)

  • 米国10年金利 1.4897 (+0.0384)

  • 原油 81.93 (+0.81%)

  • ビットコイン 7662876円 (+3.65%)

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